第25章 -きゅうしゅつ-


 警備の目を掻い潜り、ふたりは武器工場へ侵入しました。内部はたくさんの機械と作られた武器に溢れかえっていました。鉄が打たれる音、歯車の回る音が絶え間なく聞こえ、まるでひとつの合奏をしているかのようです。天井から垂れ下がる鎖が振動で揺れ、辺りに不気味な雰囲気を醸し出していました。
 ふたりは物陰に隠れて様子を伺うと、ありとあらゆるギャラクシーから集められた星の民たちが、武器たちによって無数の檻に閉じ込められている光景を目にしました。
「あんなにたくさんのチコたちが集められているとは……それに、パワースターまで」
「ジーノ、あれを」
 ロゼッタが指を指す方向を見ると、星船の格納庫がありました。そしてその中に、みんなの家……ほうき星の天文台の姿が見えました。ロゼッタたちがさらわれて空っぽになったこの船を、武器たちは回収していたのです。動力のパワースターが奪われたからか、天文台のトーチはすっかり消えてしまっていました。
 ふたりはこっそり天文台まで忍びよると、船の状況を調べました。船にはまだ、戦いの爪痕があちこちに残されていました。エンジンルームの計器や損傷を、ロゼッタはくまなくチェックしていきます。
「ロゼッタ、どうだい?」
「……パワースターさえ取り戻せば、再び動かすことができそうです」
「じゃあみんなを助け出せば、この船で脱出できるね」
 ふたりが話をしているとき、ベビィが目を覚ましました。
「う……ん」
「ベビィ」
 ロゼッタは、ベビィの顔をそっとなでました。
「ママ……? ケガはない?」
「ええ。あなたのおかげよ。ありがとう」
「よかった。目が覚めて」
 ジーノは腕を武器に変形させ、ふたりに言いました。
「ロゼッタ、ボクが彼らを助けに行く。その間に、キミは子供たちを探してくれ」
 コクリ、とロゼッタがうなづくと、ジーノは船から降りて星の民たちの元へと走りました。そして、檻の扉を次々に壊していきました。
「侵入者か!」
 警備兵がジーノに気づきました。
「みんな、逃げるんだ!」
 星の民を捕らえようとする武器たちを、ジーノは必死に退けました。
「ジーノブラスト! ジーノビーム!」
 騒ぎは大きくなり、工場内は大乱闘となりました。その混乱に乗じて、ロゼッタとベビィはチコたちを探しました。
 たくさんの武器たちを倒し、たくさんの檻を壊した頃、ジーノは背後から聞き覚えのある声を耳にしました。
「そこまでだ。にいさん」
「キミは……!」
 振り向くと、そこにはもうひとりの自分……ジェノが、赤いマントをなびかせ、ジーノを見据えていました。
「ずいぶん派手にやってくれたね。この代償は、兄さんの命で支払ってもらうよ」
 ジェノは背中の剣を抜き、ジーノに向けました。刃は赤く、怪しげな光を放っていました。
「チコたちは返してもらう!」
 ジーノは右腕に力を込めました。
「ジーノビーム!」
 ジェノはニヤリと笑うと、放たれたビームを剣で真っ二つに切り裂きました。
「なにっ!?」
「いい切れ味だ。これならば……フンッ!」
 ジェノはその場でグググ、と力をためると、勢いよく剣をふって斬撃を飛ばしました。
「しょうげきだん!」
「くっ!」
 斬撃に吹き飛ばされ、ジーノは壁に強く打ち付けられました。
「その剣は、いったい……」
 壁にめり込み、力なく尋ねるジーノに、ジェノは答えました。
「これは、星の力で鍛えられた『星斬りの剣』。星の民を斬るために作られた武器だ。そう、にいさんを倒すためにね」
 ふたりのもとへ、武器たちが集まって来ました。
「隊長どの! 侵入者でありますか!」
「ああ。ここはボクに任せて、お前たちはほうき星の魔女を探せ。兄さんがいるってことは、彼女もいるはずだ。『コウジョウチョー』に急ぎ連絡しろ」
「りょーかいであります!」
 武器たちは敬礼をした後その場を離れ、ロゼッタたちを探しにいきました。
「これで、ふたりっきりだ。邪魔するものはいない。さぁ、決着をつけよう!」
 手招きするジェノに応えるように、ジーノは壁から抜け出し、腕の銃を構えました。
「キミを倒す……全ての星の民のために!」
 ジーノの言葉を聞いて、ジェノは笑みを浮かべました。
「フッフッフ……その『星の民』が、キミの目の前で立ちはだかっているとしても?」
「なに……? まさか、キミは……!?」
「ああ、そうとも。ボクも、兄さんと同じ……『ねがいぼしのせいれい』なのさ!」
 ジェノの正体を知り、ジーノは動揺しました。
「そんな……誰が、誰がキミを願ったんだ!」
「ボクは、我が王、カジオー様の願い……いや、呪いというべきかな? その激しい憎悪によって、生まれた。そして、この武器のカラダ『GENO』に宿り、ここにいるというわけさ!」
「『GENO』、だって……?」
 その名前にもまた、ジーノは驚かされました。このカラダの名前もまた『GENO』……偶然とは思えない一致に、ジーノの心はさらに強く揺さぶられました。
「兄さんに倒せるかな? 同胞のボクを!」
 そう言い放つとジェノは、全身に力を溜め始めました。
「見せてあげるよ。ボクの、本当の力を……!」
 すると青い稲妻がジェノのカラダを覆い、バチバチッと音を鳴らしました。
「これは……!?」
「終わりだ!!」
 次の瞬間、ジェノは目の前から姿を消しました。そしてジーノの背中を剣で切り裂きました。
「ぐ……あ!」
 即座に後ろを向きますが、ジェノの姿は見当たりません。
「ハッハァ! 遅い! 遅いよ!」
 素早い動きに翻弄され、ジーノはジェノの動きを捉えることができません。放った弾丸はすべて避けられ、薬莢がただただむなしく音を立てて床に落ちていきました。
「……とどめだ!」
「!」
 刹那、ジーノの頭上に向かって、光輝く刃がまっすぐに降り下ろされました。



 ロゼッタとベビィは、工場のなかをあちこち探していました。わずかに感じるチコたちの気配を頼りに、武器たちと戦いながら奥へ奥へと進んでいきます。そしてついに、みんなが閉じ込められている檻を見つけました。
「みんな!」
「ママ!」「ママ!」「ママだ!」「ママだ!」「ママ! うぇぇん……」
 ロゼッタは檻の隙間から手を伸ばし、チコたちの頭をなでました。長老バトラーは、その様子を懐かしむように見ていました。
「ロゼッタ様、チコ様……よかった、ご無事で」
 目に涙をためて、チコたちはふたりの無事を喜びました。みんなの変わりない姿を見て、ロゼッタは深く安堵しました。
「バトラー……みんな……心配をかけて、ごめんなさい。さぁ、ここを出ましょう」
 錠を外そうと杖を掲げたそのとき、背後の暗闇からいくつものクナイが飛んできました。
「……ママ、後ろ!」
「!」
 咄嗟に展開したバリアによって、ロゼッタはクナイを防ぎました。飛んできた方向を見つめると、ひとりの武器が戦車のような乗り物に乗って現れました。武器はロゼッタたちに向けて手を広げ、言いました。
「ちょっと待った! そいつらは貴重な『資材』だ。返すわけにはいかない! スイッチオン!」
 武器が手元のリモコンのボタンを押すと、頭上から巨大なアームが現れ、檻をガシリとつかんでベルトコンベアの上に乗せました。そして、檻を運びはじめたのです。
「ママ~!」「あわわわわ!」「ロゼッタ様!」
「バトラー! みんな!」
「この先は溶鉱炉だ。生きたまま、あいつらは鉄といっしょに溶けてもらう! そして、強力な武器として生まれ変わるのだ!」
「! そんなことはさせません!」
 ロゼッタは、武器に杖を向けました。
「私はこの工場の現場を取り仕切る者、すなわちコウジョウチョーだ! 究極兵器『ラスダーン』のテスト実験に協力してもらうぞ!」
 ラスダーンと名付けられたその兵器はせわしく砲身を動かし、弾を装填しました。そして、鉄がグツグツと煮える釜から顔を出し、その頬をプクッと膨らませました。


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