武器工場への道は、まだまだ続きました。ふたりは道中襲いかかってくる武器たちを退けながら、先を急ぎます。
しばらくすると、ふたりの目の前に大きな時計が現れました。ふたつの大きなベルを携えたその時計は、針を動かすこともなく、静かに佇んでいました。ジーノは時計に近寄り、様子をうかがいました。
「この時計はいったい?」
「よけて!」
突然、背後からロゼッタが斧で斬りかかかってきました。ジーノはかろうじて避けます。
「ロゼッタ!? どうしたんだ!」
「カラダが、勝手に!」
言うことを聞かないカラダを必死に抑えて、ロゼッタは言いました。そして、ふたりの声に反応するかのように、大きな時計がベルを鳴らしました。それは、目覚ましにしては大げさすぎる音でした。その轟音に紛れて時計がしゃべった言葉を、ジーノは確かに聞きました。
「1ジニ ナリマシタ コオリヲフラス ジカンデス」
この時計もまた、カジオーによって生み出された武器だったのです。巨大な氷塊の雨がジーノに降り注ぎます。ロゼッタは、時計のすぐそばでジーノを見守っていました。
「あの時計が彼女を操っているのか? なら!」
氷塊をかわしきったあと、ジーノは腕を銃に変形させ、時計に狙いを定めました。しかし、発砲の直前、ロゼッタが両手を大きく広げて、時計とジーノの間に割って入りました。
「……!」
ジーノはとっさに銃口を降ろしました。これでは時計を撃つことなどできません。
「ジーノ、私に構わず撃って……! チコたちを助けて!」
目を閉じ、歯を食いしばりながら、ロゼッタはジーノに訴えました。
「そんなこと、できない!」
「けれど、このままではあなたが……」
ふたりの会話を遮って、時計はジーノに攻撃しました。
「10ジニ ナリマシタ ハナミヲスル ジカンデス」
時計から放たれた桜吹雪がジーノに付着した途端、そこからキノコが生え、カラダの自由を奪いました。
「……消えてしまうんじゃないかしら? フフフ……」
『ロゼッタ』は、苦しむジーノを前にして、笑みを浮かべました。
ロゼッタとベビィは、星船から落ちたジーノの行方を追っていました。イヤリングの光が差す方向へ向かうと、遠くのほうに時計らしきものとふたつの影、そしてビームの青い閃光を捉えました。
「あれは、ジーノ!」
ジーノのもとに急ごうとすると、廃棄された機械の影から突然、斧が飛んできました。
「ママ、危ない!」
ロゼッタはベビィに背中を押され、なんとか避けることができました。そして、ふたりの前に武器が姿を現しました。
「よくかわした」
「あなたは誰!?」
「我らは影の者。カジオー様のため、いざ参る」
青いカラダをしたその武器は斧を構えると、ものすごいスピードでロゼッタたちに向かって行きました。
「速い……!」
武器の一太刀を、ロゼッタは魔法で受け止めました。
「さすがはほうき星の魔女。強い魔力を持っているな」
幾度かの衝突を経て、武器はロゼッタからまた別の不思議な力を感じました。
「む、そなた……まさか? 黒き魔女から力を授かったのか? 彼女の力を感じるぞ」
「彼女は、私の心の氷を溶かしたのです」
「そうか、やはり。ならば手加減はできん」
武器はふたりから距離をとると、力を溜め始めました。そして、再び襲いかかってきました。
「きはくアップ! 行くぞ!」
「! さらに速く……!?」
目で追うことすらかなわず、ふたりは武器を見失ってしまいました。
「覚悟!」
背後から、武器が襲い掛かろうとしました。
「ママ!」
「!」
ベビィはロゼッタをかばい、武器の攻撃を受けてしまいました。
「……ベビィ!」
「かろうじてかわしたか。だが二度目はないぞ」
「ママ……」
シィ、とロゼッタは人差し指を自分の唇に軽く当てました。
「静かに……」
ベビィをその場にそっと寝かせ、ロゼッタは立ち上がりました。
「あなたを倒します。そして、我が子を守ります!」
構えた杖から白く柔らかい光があふれ、ロゼッタを覆いました。
「バリア!」
武器が切りかかると、斧は粉々に砕かれました。
「なに……」
「私は、重力と斥力を操る魔法使い。あなたには屈しません」
「ならば!」
武器は体勢を立て直すと、身体を錐もみ回転させ、突撃してきました。ロゼッタは、武器のカラダをバリアで受け止めました。
「退きなさい!」
「……!」
ロゼッタが追加の呪文を唱えると、光はさらに強まり、武器は大きく吹き飛ばされました。しかしそれでも、武器の眼差しから闘志が消えることはありません。
「これが、そなたの力か。見事……だが、ここから先は通さぬ」
ボロボロになった身体を引きずり、ロゼッタににじり寄ります。
「カジオー軍団に、栄光あれ!」
雄叫びとともに、武器はロゼッタに飛びかかりました。
「! ベビィ!!」
「サイッ!」
武器の身体が光った瞬間、あたりは爆炎に包まれました。武器は最後の力をふりしぼり、自爆したのです。
突然の爆発の振動と音に身体を揺さぶられ、ジーノは背後で起きていた戦いに気づきました。
「爆発!? あれは……」
ジーノは爆発の中に、白い光を見ました。戦いのなかで、幾度も助けられた光。あれはまさか……
「ロゼッタ!? じゃあ、キミは……?」
ジーノは振り向き、『ロゼッタ』と、彼女の持っている斧を見つめました。
「そうだ、これを!」
ジーノはロゼッタから渡されたイヤリングを取り出しました。
「彼女の居場所を教えてくれ!」
すると、イヤリングから一筋の光がまっすぐに、背後の光のほうへと伸びていきました。ジーノは『ロゼッタ』に狙いを定めました。
「ジーノビーム!」
「!」
『ロゼッタ』は大きくジャンプして、ビームを避けました。そして着地すると、真の姿をあらわしました。その姿は、さきほどの斧を持った武器たちとよく似ていました。
「よくわかったわね」
「……さっき僕たちを阻んだ部隊のひとりか」
ジーノは銃を構え直しました。武器は自分の身体をあちこち眺めて確認したあと、その白いカラダをジーノに向けました。武器には、変身する能力があったのです。
「ええ。アタシはカジオー戦隊オノレンジャー、ホワイト。アンタたちの排除が今回の任務。アイツらは表の仕事を、アタシらは裏の仕事を担当ってわけ。さぁ、わかったら大人しく消えなさい!」
武器は斧で時計の針をむりやり押し進めました。
「7ジニ ナリマシタ オフロノジカンデス」
地面から水蒸気が飛びだし、爆発を起こしました。爆発の衝撃と地面の破片が、ジーノを襲います。
「うわっ!」
武器は、身動きのとれないジーノに向かって斧を突き出しました。
「とどめよ!」
そのとき、背後からの強烈な光が放たれ、武器の目を眩ませました。ロゼッタの魔法です。
「ジーノ! 今です!」
ロゼッタの声を聞いて、ジーノは即座に手を武器に向けました。
「フィンガーショット!」
「あああっ!」
無数の弾が、武器に傷を負わせました。
「ブルーが、やられたというの? カジオー戦隊最強のアイツが……? ちっ!」
武器は傷ついたカラダをかばいながら、霧の中へと逃げていきました。
「待て!」
ジーノが追おうとすると、時計がジリリリリ……と大きな音を立てました。
「12ジニ ナリマシタ ヒガノボル ジカンデス」
時計の目の前に巨大な火の玉が現れ、周囲を灼熱の世界へと変えていきました。
「あの時計をなんとかしなくては!」
ロゼッタはバリアを出現させ、ジーノを守りました。
「ベルを狙うんだ!」
ジーノとロゼッタはベルを狙って、左右から同時に攻撃しました。
「ハンドキャノン!」
「ハッ!」
ふたりの挟撃によってベルは壊され、時計の針は2時を指したところで動かなくなりました。
「2ジニ ナリマシタ ……ナニヲスル ジカンデス?」
「『お昼寝』の時間だ!」
ジーノのビームが針を砕き、時計は完全に機能を停止しました。
「ふぅ……ありがとう。助かったよ」
「間に合ってよかった。ルーバたちも無事です。さ、急ぎましょう」
ロゼッタが杖をふると、遠くにいたベビィのカラダが浮かび、ロゼッタの腕のなかにスポッと収まりました。
「ベビィ! 大丈夫かい?」
ロゼッタはうなづくと、ベビィの頭上で杖をふりました。すると、カラダの傷がみるみる癒えていきました。
「治癒のまじないを施しました。すぐに目が覚めるでしょう」
眠っているベビィの顔を、ロゼッタは優しくなでました。
「そうか、よかった。ロゼッタ、あれを見てくれ」
ロゼッタは、ジーノが指を差した方向を見ました。霧の切れ目から、巨大な建物と、無数の煙突が垣間見えました。
「あれが……」
「うん、武器工場だ。チコたちはきっとあそこにいるはず。こっちだ」
ジーノたちは、武器工場のもとへまっすぐに進んでいきました。侵入者に警告するかのように、煙突の煙は勢いを増し、霧をより濃く、深くしていきました。
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