「いけ、ラスダーンよ! ジャスティスブレイカ!」
ラスダーンは膨らんだ頬をポンッと弾けさせると、その砲身をロゼッタたちへと向けました。
「あれは防ぎきれない……!」
強力な力を感じ、ロゼッタたちは距離をとりました。
近くにいた武器たちは、慌ててコウジョウチョーを止めようとしました。
「コウジョウチョーどの、おやめください! 工場ごと吹き飛んでしまいます!」
「ラスダーンはまだ調整中の武器です。それを使うとどうなるか、予想がつきません!」
「……ええい、邪魔だ! どけ!」
コウジョウチョーは部下たちの制止を振り切り、狙いを定めました。
「侵入者を倒すためだ。止むをえない! 発射!」
以前ジーノたちを吹き飛ばした凶悪な光線が、今度はロゼッタへ襲い掛かりました。
後ろへ下がりながら、ロゼッタはバリアをはりました。
「……!」
激しい音が工場中に響きわたり、周りにあったものはすべて吹き飛ばされました。そして、工場の壁にぽっかりと大きな穴が開きました。
ロゼッタとベビィはかろうじて攻撃をかわしました。しかし、予想以上の衝撃によって、ロゼッタは体力を大きく消耗していました。
舞い上がる煙の中で、ロゼッタはベビィに言いました。
「ベビィ、よく聞いて。私が囮になるわ。その間に、あなたは隙をみてあの武器からリモコンを奪うのよ。あれがあれば檻を止めることができるはず。今度こそ、みんなを助け出しましょう」
「ダメだよママ! 一人であんな恐ろしい怪物を相手にするなんて……」
不安げな表情を浮かべるベビィの頬を、ロゼッタはそっと触りました。
「ママは大丈夫。無茶はしないわ。みんなで必ず帰るって、ジーノと約束したでしょ?」
身体に、ロゼッタの手の温もりが伝わってきました。少しの間の後、ベビィは決心し、力強くうなづきました。
「うん、わかったよママ。気を付けて」
ベビィはロゼッタから離れ、煙の中に消えていきました。
「そこか!」
煙の中のロゼッタを、コウジョウチョーはついに見つけました。すかさず、攻撃をはじめます。
ロゼッタは残り少ない力をふりしぼり、ラスダーンの猛攻をさばいていきます。その様子を、ベビィは物陰からじっと見ていました。
「ママ……」
手足が震え、呼吸が荒くなっていきます。次第にたまっていく疲労が、ロゼッタに一瞬の隙をつくりました。
コウジョウチョーは、その隙を見逃しませんでした。
「どくばり!」
投げられた針が、ロゼッタの肩をかすめました。
「うっ……」
身体がしびれ始め、ロゼッタはその場に膝をつきました。
「ハッハッハ! じわじわと身体を苦しめる毒だ。これで力は出せまい!」
コウジョウチョーはチャンスとばかりに、ロゼッタへ攻撃を畳みかけました。
「ライトサーベル!」
放たれた光線がロゼッタのバリアを打ち砕きました。
「今だ!」
コウジョウチョーはリモコンのボタンを押して、工場のアームを起動させました。そして、倒れ込むロゼッタを拘束しました。
ベビィは、ロゼッタのもとへ行きたい気持ちをぐっと抑え、リモコンを奪うチャンスをうかがっていました。
コウジョウチョーはロゼッタを捕らえたアームを自分の近くに寄せました。
「フッフッフ。生身の肉体なぞ、脆いものよ。徹底的にいたぶってから、お前も武器の身体にしてやろう。そら!」
ボタンを押すと、アームの力が強まり、ロゼッタを握りつぶそうとしました。
「あああっ!」
ロゼッタの叫び声に耐えかねて、ベビィがコウジョウチョーめがけて猛突進しました。
「ママを、はなせーー!!」
コウジョウチョーはベビィに向かってクナイを投げつけました。ベビィはバランスを崩し、地面に落っこちました。
「バカめ! 気づいていないとでも思ったか!」
「ベ、ビィ……」
締まっていくアームに苦しみながら、ロゼッタは最後の力を振りしぼり、杖を振りました。
「ふん、無駄なあがきを……なにっ!?」
突然、ラスダーンが動かなくなりました。釜を覗くとなんと、カッチコチン! ロゼッタの魔法で、アツアツの鉄は氷のように冷たくなっていたのです。
ラスダーンは突然の温度変化で、あちこちに亀裂が入り、粉々に砕け散ってしまいました。
衝撃で、コウジョウチョーはリモコンをポロリと床に落とし、自身は強く打ち付けられました。
「お、おのれぇ……魔女め!」
コウジョウチョーはクナイを取り出し、倒れているロゼッタに襲い掛かりました。
「ママっ……!」
そのとき、ベビィがありったけの力で、コウジョウチョーにぶつかりました。
「っ!? うわあああ!!」
不意をつかれ、コウジョウチョーは工場の地下へと真っ逆さまに落ちていきました。
ロゼッタは這いつくばって、ベビィのもとへ寄り、ぐったりとしているベビィを抱きました。
「ママ……大丈夫?」
「ええ、ママは平気よ。ありがとう」
「えへへ……」
ロゼッタはベビィを抱えながらよろよろと立ち上がると、落ちていたリモコンを拾いました。
「これで……」
緊急停止のボタンを押すと、あたりの機械が動きを止め、工場はしん……と静まり返りました。チコたちの檻を運んでいたベルトコンベアも動きが止まり、ふたりは安堵の息をもらしました。
ベルトコンベアの上を歩いていくと、チコたちの檻が見えてきました。
「ロゼッタ様!」「その傷は!?」「ママ、チコ様……」
チコたちはふたりの姿を見て安心する一方、身体のあちこちについた傷を心配しました。
「みんな無事ね……よかった。私たちは大丈夫」
ロゼッタは檻にもたれかかると、その場に座り込みました。
「ママ、どうしよう? 鍵がないよ。ボクの力じゃ、壊せそうにないし……」
檻をコンコンとたたきながら、ベビィが尋ねました。ロゼッタはベビィに微笑んで言いました。
「もう少ししたら、ママはまた魔法が使えるようになるわ。ママの力なら、きっと開けられる」
「ボクに任せな!」
頭上の連絡用通路から、慣れ親しんだ声が聞こえました。
「ジーノ! 来てくれたのですね」
ジーノは通路から飛び降りました。ベビィはいそいそとジーノのもとへ近づきます。
「ジーノ! 無事だったんだね!」
「あぁ、『チコ』。待たせたね。今開けるよ」
「『チコ』……?」
ロゼッタはその一言で、ジーノの正体に気づきました。
「ベビィ! 彼から離れて!」
「……フッ!」
「!? わああああ!!」
ロゼッタの声は間に合わず、ベビィはジーノに吹き飛ばされてしまいました。檻の中のチコたちは、信じられないといった目でジーノを見ています。
「ジーノ殿……どうして? ……なっ!?」
バトラーがつぶやいたそのとき、ジーノの身体をマントが覆いました。そして広がると、その中から一人の武器が姿を現わしました。
「大ピンチ、って顔ね。ほうき星の魔女さん?」
ジーノの正体は、道中で相対したカジオー戦隊暗部のひとり、ホワイトだったのです。
「あなたが弱るのを、じっと待っていたのよ。確実に仕留めるためにね」
「くっ……」
ロゼッタは杖をかざしますが、魔力はまだ十分に戻ってはいませんでした。魔法をかわされ、あっという間に懐に入られてしまいます。
「ベビィ……うっ」
ホワイトはロゼッタの胸のブローチをつかみ、持ち上げました。
「じゃあね、さようなら!」
斧を振り下ろそうとしたその瞬間、ホワイトの身体に何かが巻き付き、持ち上げました。
「ペロンッ!」
「えっ!? きゃああああっ!」
なんと、巻きついたものは、恐竜の舌でした。
ホワイトはそのまま口の中へとしまわれ、大きな卵になって出てきました。もう抵抗する様子はありません。
恐竜の背中には、紫色のチコがずしりと乗っかっていました。
「ルーバ!」
不時着の後、武器たちを退けたルーバは、その衝撃で生まれた恐竜に乗って駆けつけてくれたのです。
「ロゼッタ様! チコ様! おケガを……」
「私は、大丈夫。それよりもベビィがひどいケガをしています。彼を頼みます。それから私の子供たちと、この工場に捕えられている星の民たちのこともよろしくお願いします」
「わかりました、お任せください。ロゼッタ様は?」
ロゼッタは、工場の奥を見据えました。
「ジーノとともに、この工場の主を止めに行きます。もう、こんなことをさせるわけにはいきません」
「お気を付けて。これをお使いください」
ルーバは、ロゼッタに傷薬を手渡しました。
「それと、これを。私の船のチコたちからの差し入れです」
ルーバはロゼッタに、包んだ布を渡しました。中には、星くずがいっぱい入っていました。
「ありがとう」
「ロゼッタ様。必ず、帰ってきてください。星くずの加護がありますよう……」
「ルーバ、あなたにも、星くずの加護があらんことを……」
檻を壊してチコたちを助け出した後、ロゼッタは星くずを、チコたちに渡しました。
「みんな、これを。元気になるわ」
チコたちは、星くずを食べて元気になりました。ロゼッタもひとつまみ取り、口に含みました。甘いハチミツの味が広がり、疲れを癒してくれました。
「みんな、またあとで。ジーノを連れて、すぐ戻ってくるわ」
「ママ!」「ママ!」「ぼくも、いっしょに行きたい!」
ロゼッタについていこうとするチコたちを、バトラーは必死に止めました。
「ここはお任せを。ロゼッタ様……ジーノ殿を、よろしく頼みます」
コクリとうなづくと、ロゼッタはひとりで工場の深部へと向かっていきました。
ジーノは、ジェノの剣を腕で受け止めました。刃がミシミシと音を立てて食い込むのをよそに、ジーノはジェノにそのまなざしを向けていました。
「……ジェノ、キミが誰かに願われてここにいるように、ボクもまた、ボクを願ったヒトのためにここにいる。『大切なヒト』……ボクは、守りたい。みんなを……彼女を!」
ジーノは、ジェノの剣をはらい除けました。
「なにっ!?」
「ボクは、戦う。たとえキミが、ボクと同じ存在だとしても!」
ジーノは天に向かって、思いっきり腕を掲げ、唱えました。
「星よ……ボクの中に眠る力を、全てここに! ジーノウェーブ!!」
ジーノの身体が、赤く光り始め、関節から湯気が漏れます。底知れない力を感じ、ジェノは思わず笑みを浮かべました。
「この力……あぁ、にいさん! いいよ! 存分にやろう! ハァッ!!」
「ジェノ!!」
ジーノの光線が地面を穿ち、ジェノの剣が空を斬り裂きました。
いつ終わるとも知れぬ閃光の嵐。武器と武器がぶつかり合い、弾け、辺りにすさまじい衝撃と音をまき散らしました。
「これで!!」「最後だ!!」
ジーノは右腕に渾身の力をこめ、放ちました。
「しょうげきだん!!」「ジーノビーム!!」
かつてない衝突に、工場内は大きく揺れ、あたりは光で真っ白になりました。
それまで互角だったふたりの力。しかしここで、ジーノの中に眠る『もう一つの力』が、呼び起されました。
「く、ぐ……おおおおおおおお!!」
「なに!? う、うわああああああああああああ!!」
辺りを覆っていた光が潰えると、そこには、ジーノと、倒れたジェノだけがいました。
ジェノは、半分しか開かなくなった目で、ジーノを見ていました。手足はちぎれ、もはや戦うことはできません。
「オホッオホッ……なるほどね。黒き魔女の力か。まさか彼女が、キミに力を与えていたとは。魔女というのは、とんだ気まぐれ屋さんだ……」
ジーノは、自分の右腕を見ました。以前、天文台で修理してくれたこの腕に、彼女はこっそりと魔力をこめていたのです。
銃をしまい、ジーノはジェノに背を向けました。
「とどめを……刺さないのかい?」
「ジェノ……キミも、キミの『大切なヒト』のために、戦っただけだ……」
「……甘いね」
去ろうとするジーノに、ジェノは飛びかかりました。
「!」
「いっしょに、行こうよ……兄さん」
不敵に笑うジェノの身体から、音が聞こえます。ジェノは、身体の中にある最後の武器……自爆装置を作動させたのです。振りほどこうとしますが、力を出し切った反動で、ジーノの体力はすでに限界に達していました。
「(身体が動かない……!)」
万事休す……しかし爆発の直前、ジーノは、ロゼッタの声を聞きました。
「ジーノ!」
ドゴオオオオオン!!
工場に再び、大きな穴が開きました。炎が燃え盛り、辺りを焦土へと変えていきました。
……爆発の中心部に、人影が見えます。ジーノです!
ロゼッタは魔法で、ジーノのまわりにバリアをはっていました。彼は、なんとか無事のようです。
「よかった、ジーノ……」
ロゼッタは近づいて、ジーノの肩を抱きました。
「彼は……」
ふたりはあたりを見渡しました。ジェノの姿はありません。
ロゼッタは、ジーノに治癒の魔法を施しました。完治とはいきませんが、それでも、立って歩くくらいの元気をジーノは取り戻しました。
ジーノはうつむいて、ロゼッタに言いました。
「彼も、ボクと同じだった。彼の『大切なヒト』、カジオーの願いによって生まれた……」
「そんな……あの者も『ねがいぼしのせいれい』だったなんて……」
ロゼッタは、爆発の中心部をじっと見つめました。最後に見たジェノの表情が頭をよぎります。
ジーノは顔を上げ、力強く言いました。
「カジオーを、倒す。もう二度とこんなことが起きないように。そして、世界を守るために」
「はい」
「ロゼッタ……この先に、彼がいる。もう、後戻りはできないかもしれない。だから、キミはここから……」
ジーノが言おうとすると、ロゼッタは首を振り、胸の前で手を強く握りました。
「私は、あなたのそばにいます。たとえ、何があろうとも」
「ロゼッタ……ありがとう」
「必ず、帰りましょう」
「ああ! もちろんだ」
ジーノは吹き飛んで地面に刺さったジェノの剣を抜き、背中に担ぎました。
「キミの力を、貸してくれ」
ふたりはついに、武器工場の最深部へ足を踏み入れました。
しばらくして、爆発の中心部に光が集まり、小さな星が生まれました。そして、惹かれるように、ふたりのあとについていきました。
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