第6章 -であい


 星が生まれ、流れ星となって降っていくのを、『彼』は幾度となく観ました。けれど、あのときのねがいはいつまでたっても流れ星にはなりませんでした。

 ……遠くから、何かが近づいてきます。誰かの願いではありません。それは、キノコの形をした星船でした。
「あれは……」
 星船は白い煙をだしながら、着陸しました。そして中から、女の子と星の子が出てきました。
「不思議な場所だね……ここは何だろう?」
「ママが、いるような気がしたのだけれど……」
「ヤァ。はじめまして、おふたりさん」
 『彼』は、少女に話しかけました。少女は光に包まれた小さな星に声をかけられ、キョトンとしています。
「あなたは?」
「ボクの名前は『♡♪!?』。ここでずっと、星を眺めているんだ」
「『♡♪!?』? 変わった名前ね」
 クスリと少女は笑いました。
「スター語だからね。発音が難しいのさ」
「ねぇ……この大きなお星さまは何?」
「この星はスターロード。ヒトビトの願いを星に変えて、願いが叶うお手伝いをしているんだ」
「スターロード……!」
 それは、ママの絵本で何度も何度も聞いた名前でした。
「本当に、本当にあったんだ……」
 少女はペタンと座り込み、スターロードをそっと撫でました。
「もちろん。キミたちが託した願いは、スターロードで星となって、夜空を輝かせているよ」
 少女は『彼』に尋ねました。
「じゃあ、もしかして……あなたは、『ジーノ』を知ってるの?」
「『ジーノ』? ……『ジーノ』…………いや、わからないな……」
 本当に……? 『ジーノ』という名前が、『彼』の心の中に広がります。少女は少しがっかりした様子で、足元に視線を落としました。
「そう……ここにいるなら、何か知ってるんじゃないかな、って思ったの。ジーノにいつか会えたらいいな……」
「ところでキミたちは、これからどこに行くんだい?」
「私たち、ママを探しに行くの」
「ママ?」
「うん。私たち、ママが迎えに来るのを、ずっと、ずぅ~っと待ってたんだけど、いつまで経っても迎えが来なくて……だからこっちからママに会いに行くの」
「そうか。キミたちは、ママに会いたいんだね」
「うん……ママは、この星の世界のどこかにいるの……だから」
 少女の碧く澄んだ瞳は、とてもキレイで…でも、どこか哀しげでした。
 『彼』は少し考えると、言いました。
「キミの願いを、叶える助けになろう。サァ、キミの願いを、このスターロードに思いっきり強く、願うんだ! 願いは星となり、キミの道を照らし続けてくれるよ。願いが叶うそのときまで」
「私のねがい……ママ……」
 目を閉じ、両手を握りしめて、少女は願いました。すると、少女の目の前に、フワリ……と光があらわれました。
「これが、私の願い……? あっ!」
 その光は上空へ高く、高く、飛んでいきました。
「スターロードは、聞き入れてくれたようだ。キミの願いは、星となった!」
「ありがとう。なんだか勇気が湧いてきたわ」
「ねぇねぇ、そろそろ行こうよ。ママが近くまで来てるかもしれないよ」
 星の子の一声で、少女はハッとしました。
「そうね。私たち、そろそろ行かなくちゃ。またね……今度はママといっしょに来るわ」
 少女は立ち上がりました。
「うん。キミたちが来るのを楽しみに待っているよ」
 『彼』がそう言うと、少女と星の子は星船のもとへ向かいました。
 シュウウウ……ゴォオオオ……
 大きな音を立てて、星船は旅立っていきました。手を振る少女と星の子の姿は、あっという間に宇宙の闇に紛れて、見えなくなりました。
 星船の中で、少女はこっそり持ってきたジーノ人形を取り出しました。
「(あなたがどこにいるのか、ママに会ったら聞かなくっちゃ)」
「ねぇねぇ、あっちに行ってみようよ。ママがいる気がするの」
「ええ、行きましょう!」
 星船は星の子が指差す方向へ進路を変え、進んでいくのでした。


「……、あの子は行ってしまったよ。どこまでも続く、この果てない星の海へ……あの子の願いは、きっといつか叶うだろう。でもそれは、悲しいことだ……」
 『彼』は、少女の中に彼女の存在を感じていました。
「せめて、旅の無事を……」
 少女と星の子が向かっていった先を、『彼』はいつまでもいつまでも見ていました。


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