無数の星船が、ひとつの宙域に集まっていました。以前、ロゼッタたちの天文台を襲った斧の星船の姿も見えます。
星船のなかに、一本の巨大な剣がありました。剣というにはあまりに大きいそれは、他の武器たちと同じように、目や口といった器官が備わっています。その剣もまた、意思を持っていました。どこを見るともなく、大きな目をギョロギョロと動かしています。
斧の星船の船内で、警戒音が鳴り響きます。見張りから連絡が入りました。
「後方より、急速に接近する機影アリ!」
「データ照合……これは、むらさきぼしの一味の船です!」
「来たか……! みんな、準備はいいか!?」
伝わってきた情報に、『彼ら』のリーダーは闘志を燃やします。全部で五人の武器たちが、それぞれの想いを胸に、戦いのときを待っていました。
「いいぞ、レッド!」「いくでゴワス」
「待ちくたびれたわ、レッド」「お化粧のノリがイマイチね……」
「俺たちの初陣だ。気合をいれていくぞ!」
斧を掲げ、彼らは叫びました。
「出動! オノレンジャー!」
集結した武器たちの星船にむかって、一筋の流れ星が突っ込んできました。流れ星の正体は、星船でした。ものすごいスピードで星の海を切り裂いていきます。
「気づかれたみたいだ。みんな、しっかりつかまってな!」
遠くの船の細かな動きを見て、ルーバは大声を出しました。
その直後、たくさんの星船から砲弾が飛んできました。ひるむことなく、ルーバたちの星船は弾幕をかいくぐっていきます。今まで以上に荒っぽい舵とりに、船員たちはあっちこっちに振り回されました。
「ひえええ、親分!」「も、もうちょっとゆっくり!」「エンジンが燃えちゃうよ!」
かわした砲弾が、次々と爆発します。その光はまるで、宇宙に花を咲かせているようでした。
「なかなかの数だ。ねがいぼしくん、奴らの根城はどこだい?」
前方に意識を集中させながら、ルーバはジーノに聞きました。ジーノは、目の前の巨大な剣に指を差しました。
「あれだ。あの剣が、ボクたちと、武器の世界をつなぐ扉……『カリバー』だ。奴の口に向かってくれたまえ!」
「わかった!」
ルーバは船の進路を、剣に……カリバーに向け、前進させます。ジーノの隣で、ベビィはトレードマークの赤い帽子を、いつもより深くかぶり直しました。
「いよいよだね……ジーノ。ボクも、いっしょに戦うよ。みんなを助けるために!」
今までの旅で、大きく成長したベビィ。彼の声に、幼さはもう感じられません。
「ああ! いっしょに、みんなを助けよう! ベビィ!」
ジーノは腕を組み、うなづきました。
「ジーノ」
ふたりの背後から、声が聞こえました。ロゼッタです。
「私も、あなたたちといっしょに戦います。我が子のために。そして、故郷のために」
「ロゼッタ、キミはまだカラダの具合がよくない。無茶をしちゃいけないよ。キミはルーバたちとともに星船を守ってくれ」
「いえ、私も行きます。行かせてください」
意思を曲げようとしないロゼッタに、ジーノは本心を打ち明けました。
「この先、何が起こるかわからない。もうひとりのボク……ジェノも、きっとあの中でボクを待っているはず。キミをこれ以上、危険な目に合わせるわけにはいかないんだ。もし何かがあったら、そのときはキミたちだけでも……ロゼッタ?」
ロゼッタはジーノに近づき、抱きしめました。彼女もまた、本当の気持ちを伝えます。
「私は、怖い。我が子を……あなたを、失うのが。もう二度と、離れたくない。私の『大切なヒト』と、もう二度と……だからお願い。あなたのそばにいさせて」
彼女の強い気持ちに、ジーノは心動かされました。互いに目を見つめ合います。
「ロゼッタ……わかった。ともに戦おう。そして、いっしょに帰ろう! ボクたちの家に!」
「はい……ジーノ! あれを!」
「あのときのっ!」
斧の星船が、彼らに近づいてきました。船の甲板には、すでに大きな顔が姿を見せていました。
「でかいのが来そうだ! 主舵一杯!」
強大なエネルギーの収束を感じ、ルーバは本能的に回避運動をとります。
「受けよ! 悪の鉄槌!」
顔の付近では、斧を持った五人の武器たちが、理由もなく決めポーズをとっていました。
「フォースセットオン! チャージスタンバイオッケイ!! いくぞ! ジャスティスブレイカーーッ!!」
顔の口から、強烈な光線が発射されました。光線を浴びた隕石が、跡形もなく消えていきます。
間一髪、避けることができました。ルーバは冷や汗をぬぐう間もなく、次の砲撃を警戒します。
「あんなのを食らったらひとたまりもないよ! ねがいぼしくん!」
「わかった! 赤ボム兵くん!」
「了解であります!」
ジーノはカラダは大砲に変形しました。赤ボム兵は、どこからともなく伸ばしてきたケーブルを、ジーノに接続しました。
「船の動力炉との連結完了! 発射準備オーケー!」
「エネルギー充填!」
ジーノのカラダに、星船の力……『パワースター』の力が蓄えられていきます。
斧の星船は次の砲撃を撃とうと、船を動かし、射角を取り直しました。そしてルーバたちの背後を狙って、その口が大きく開きました。
「……チャージ完了。これで終わりだ! 発射!」
「そうはさせない! ジーノフラッシュ!」
同時に発射されたふたつの攻撃が激しくぶつかり、目が見えなくなるほどのまぶしい光と、鼓膜がやぶれてしまいそうなほどの轟音、そしてカラダがちぎれてしまいそうなほどの衝撃が周囲に広がりました。
「うわああああああっ!」「おおおおおおっ!?」
力は拮抗し、ふたつの星船はたがいに正反対の方向に吹き飛びました。
「おのれ……船の被害状況はどうなっている!?」
「さきほどの爆発で、エネルギータンクにひびが入りました! ジャスティスブレイカ、発射不能!」
「なんだとっ!」
「レッド、突破されちまったぜ!」
サングラスをかけた黒い斧の武器が、いち早くルーバたちの星船を見つけます。
「追いかけるぞ! 突撃だ!」
その言葉に、武器たちはうろたえました。
「レッド……気持ち悪いでゴワス」
「お前は食べすぎなんだよ! 食べすぎ!」
「私も頭がくらくらしてきちゃったわ。レッドォ」
「まつ毛がとれちゃった! 片方だけじゃ、落ち着かないわ!」
今の衝撃で、すっかり統率が乱れています。リーダーのレッドは、斧の頭を甲板に叩きつけ、みんなを奮い立たせました。
「我慢しろ! ここで失敗したら、俺たちのメンツ丸つぶれだ! 『中のふたり』にも笑われてしまうぞ! 全速前進!」
斧の星船は、彼らを追いかけました。
「さぁ、もうすぐだ。突っ切るよ!」
剣の口が見えてきました。ジーノは大砲に変形したまま、砲手のボム兵に指示を出しました。
「赤ボム兵くん! カリバーの目を狙ってくれ! 奴の本体はメノバリアーに守られている!」
「わかったであります!」
カリバーが、ルーバたちをギロリとにらみました。
「なんだお前たちは!? この先は通さんぞ!」
両目と口から、魔法が放たれます。
「どろみず!」「カチコッチン!」「ばくはつ!」
「もっと近づいてくれ!」
カリバーの攻撃で、船体が激しく振動しました。ベビィは、倒れそうになったロゼッタを、小さなカラダで支えます。
「ジーノ!」
ベビィの呼びかけに、ジーノは応じました。
「ああ……今だ!」
「照準合わせ、よし。ファイア!」
放たれた砲弾が、カリバーの目の前で爆発し、さきほどと同じくらいの閃光を放ちます。カリバーは、目が見えなくなりました。
「目がっ!?」
「変形解除! ロゼッタ、頼む!」
「! はい!」
ロゼッタは、スターリングを呼び出しました。それに乗り、ジーノは大きくジャンプします。そしてカリバーの柄頭に攻撃しました。
「ジーノカッター!」
光の刃が、カリバーの頭部を両断します。
「!? ぐおおおおおおお……」
目をぐるぐる回し、カリバーは大きな口をだらしなく開きました。
「今だ! ルーバ」
「行くよ、みんな!」
ルーバたちの星船は、口の中へと飛び込みました。
斧の星船から見ていたレッドは、慌てて船を止めるよう命令しました。それから、周囲の星船に呼びかけました。
「整備班! 急いでカリバーの修復作業に取り掛かれ! あれではゲートが不安定になってしまう!」
「了解です!」
「くそう、奴らめ!」
レッドは怒って、斧を振り回しました。
「アイツらに任せるしかないのか……!」
痙攣を起こしたカリバーの口を、レッドはただ見つめるほかありませんでした。
薄暗く、宙に舞い上がる灰が光をさらに遮ります。さまざまな金属の入り混じった匂いが鼻を刺激し、吸いこんだ空気は重く、冷たく感じられました。
ジーノたちはついに、武器たちの世界にたどり着きました。
「ここが、武器たちの世界……私たちの世界とは、まるで違う……」
数多の星々を旅してきたロゼッタでさえ、その光景の異様さに驚いていました。
「!」
と、そのとき、船が激しく揺れました。みんなはバランスを崩して倒れてしまいました。
「親分! エンジンがやられた! 姿勢制御できないよ!」
船員のチコからの報告を受けて、ルーバは急いで舵を取り直しました。比較的バリアの薄い、船体下部をやられてしまったようです。高度が落ちていきます。
地上からの砲撃を確認すると、ルーバは覚悟を決めて言いました。
「ロゼッタ様、ねがいぼしくん! ちょっと荒っぽいけど、着陸するよ! 準備をしておいてくれ!」
このままでは船もろとも吹き飛ばされてしまう……ならばと、ルーバは賭けに出ました。
「総員、衝撃に備えな!」
近場の陸地に狙いを定め、ルーバは船を強引に着陸させました。
「まずい!」「アカンで!」「星船が……!」「ひえっ……!?」
ズドドドド……!!
すさまじい衝撃です。ジーノは星船から振り落とされてしまいました。
「あわわわわっ!?」
「ジーノ!」
ロゼッタは、ジーノの手をつかみ損ねてしまいました。
「……!」
星船はかろうじて、着陸に成功しました。しかし、自慢の鼻はぐにゃりとひしゃげ、先端に置いてあった恐竜の卵に、ひびが入ってしまいました。
「……みんな、大丈夫かい? ……あれ、ねがいぼしくんは?」
キョロキョロと見渡しますが、ジーノの姿が見えません。ロゼッタが言います。
「さっきの衝撃で……でも、居場所はわかります。このイヤリングがさす方向に、必ず」
ロゼッタが念じると、イヤリングから一本の光の線が発せられました。
「お急ぎください。すぐに奴らがやって来るでしょう。ここは私たちにお任せください。ロゼッタ様は、ジーノとチコたちを!」
「わかりました。お願いします。ベビィ! 行きましょう!」
「うん! ジーノ、みんな! すぐ行くから待ってて!」
ふたりは光の指す方向へ、進んでいきました。
「…………」
その様子を観察していたひとりの武器がこっそり、ロゼッタたちの後を追いました。手には、さきほどの武器たちと同じく、斧が握られていました。
ほどなくして、星船の傍らで、ひびの入った卵の中から、大きな鳴き声とともに恐竜が生まれました。名前は……
「ヨッシー!」
「……ずいぶん下のほうに落ちてしまったみたいだな。みんなは無事だろうか?」
落下の衝撃で着いたほこりを払いながら、ジーノは周りを見渡しました。
「ジーノ!」
「ロゼッタ!?」
岩陰から、ロゼッタが出てきました。
「あなたを助けようと、私も後を追って……会えてよかったわ」
ロゼッタは、胸を撫で下ろしました。
「無茶はしちゃいけないって、言っただろう? でも、ありがとう。……あれ、その斧は?」
見慣れないものを持っているロゼッタに、ジーノは聞きました。
「あなたを追いかける最中、杖を落としてしまったので。身を守るためにと」
「そっか。それじゃ、先を急ごう! こっちだ」
ジーノは走り出しました。
「ええ……行きましょう」
背後で『ロゼッタ』がニヤリと笑ったことを、ジーノは知る由もありませんでした。
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