「ジーノ!」「ねがいぼしくん!」
残りわずかだった自分の魂を、ジェノは剣に移していました。そして最後の力を使い、ふたりめがけて飛んできたのです。剣は魂に耐え切れず、ボロボロになって彼とともに消えていきました。
ロゼッタは、倒れたジーノを抱きあげました。その胸には、ぽっかりと大きな穴が開いています。
「ケガがなくて……よかった……」
ジーノは、口元に笑みを含ませて言いました。ロゼッタは急いで杖を取り出します。
「今、治癒の魔法を……」
ロゼッタは魔法で、胸の傷をふさぎました。けれどジーノの表情は変わりなく、とても苦しそうでした。
「ボクの、『魂』を斬られた……魔法では、もう……」
治せない……ジーノは、重くなった口を小刻みに動かし、何とか言葉にしました。
「そんな……」
「痛くはないよ……でも、とっても……眠いんだ。とっても……」
「ジーノ、ダメです……目を閉じてはダメ……」
眠りにつこうとするジーノをロゼッタは強く抱きしめ、止めようとしました。あのとき、自分を抱きしめてくれた腕。それは今、力なくだらりと垂れ下がっています。
「脱出します!」
ルーバと船員たちは、慣れない舵を取り、天文台を動かしました。崩れる工場を後にして、天文台は武器の世界から脱出しました。遅れて、ルーバたちの星船もやってきました。
カリバーの口から出た途端、天文台と星船はカリバーにあっという間に引き離されてしまいました。ものすごいスピードで、ふたりの星に突っ込んでいきます。
「あわわわわ! なんてスピードだ。この船の状態じゃ追いつけないよ!」
「なんとかしておくれ! ひとつの世界が懸かってるんだ!」
「無茶です!」
焦りを滲ませ、ルーバは船員たちに指示します。けれど、天文台も星船も度重なる戦いで、幾多の動力を失い、本来の力を出せないでいました。ルーバたちは、カリバーの通った後にできた星雲の軌跡を、ただ見つめるしかありませんでした。
「このままじゃ……」
全てが終わる……いったい、どうすれば……
みんなが落ち込むなか、ロゼッタの腕の中で、ジーノは小さな声を絞り出し、言いました。
「ロゼッタ……ボクの願いを……聞いてくれるかい?」
「ジーノ?」
うつむいた顔を上げ、 ロゼッタは閉じかけている彼の瞳を見つめました。
「願ってほしいんだ……世界の平和を……スターロードに……」
「それは……ジーノ……! まさかカリバーを止める方法って……」
コクリと、彼はうなづきました。考えたくはなかったこと。いちばん恐れていたこと。
「ボクが……スターロードが……みんなの盾になる……あの世界を守るために……」
「そんなことをしたら、あなたは……!」
唇が震え、ロゼッタはその先を言うことができませんでした。
「……キミのママは、キミの笑顔を……キミの世界を守りたかった。だから、ボクは生まれた……そして今、その願いを叶えるときがきたんだ……」
――託された願いがかなったとき……あなたの魂は星に還らなくてはならない。
黒き魔女……エステラの口にした言葉が心をよぎります。ねがいぼしの化身であるジーノ。その役目を終えたとき、彼はスターロードに還らなければならない。
運命が今、ふたりの目の前に迫っていました。
「ボクは……スターロードに還る……だから最後に……ボクの魂と……みんなの願いの力を……スターロードに届けたいんだ……そうすればきっと……」
ロゼッタは、ジーノの手を握りました。そのぬくもりはもう、ジーノには届きません。
「こんなお別れだなんて……いっしょに帰ろうって、約束したのに……」
「すまない……」
「ダメ……そんなことできない……ずっと、そばにいて……ジーノ」
「ボクは、キミのそばにいる。キミの、心に……ずっと……」
「ダメ……ダメ…………」
「キミがいたあの世界を……守りたいんだ……また、キミと会うために……」
ジーノは虚ろな目で、ふたりの星に目をやりました。
「キミと旅をして……世界が巡ることを……知った。だから……ボクたちはまたいつか、どこかで会うことができる……同じ世界、同じ顔、同じ姿で……すぐに会えるさ……心配することはないよ……ほんのちょっとだけの間さ。だから、泣かないで……ロゼッタ」
大丈夫。ニッと、ジーノが笑います。目に涙をため、ロゼッタは必死にうったえました。
「ダメ……それでも、あなたは、あなたしかいないの……行かないで…………ジーノ……ジーノ…………」
――ボクは、星になります。キミをのせて自由に旅ができる、流れる星に!
あのとき、星に生まれ変わったチコ。その笑顔と、ジーノが重なり、ロゼッタの心は悲しみに包まれました。涙が、頬を伝いました。ジーノは、その美しさに見とれました。
「星くずだ……とても、キレイな――」
流れるロゼッタの涙が、ポタリとジーノの頬に落ちたその瞬間、ジーノの体は光に包まれました。そして、ひとつの流れ星となって、スターロードへと飛び去って行きました。
――さよなら、ロゼッタ……ありがとう。
「ジーノ! ジーノっ!」
「ママ!」「ロゼッタ様!」「危ない!」
ジーノを追いかけようとするロゼッタを、バトラーとチコたちは引き止めました。
みんなは祈り、流れ星に……ジーノに、願いを託しました。
「あれはっ!?」
流れ星が見えなくなった後、目の前を強烈な光が覆い……そして再び、宇宙の闇が広がりました。
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