第30章 -はじまり-


 煮えたぎる溶岩と、侵入者を阻むトラップ、そしてたくさんの兵士たち。数々の障害をかわし、『ヒーロー』はお姫様を助けに、魔物のお城のなかを突き進んでいきました。
 巨大なシャンデリアの上で、魔物はヒーローを待ち構えていました。天井につるされたお姫様は、ふたりの対決を見守っていました。
「ガハハハ……キョウこそ決着をつけてやるぞ!」
「クサリを狙って!」
 お姫様の声を聞き、ヒーローはシャンデリアを咥える鎖に狙いを定め、踏みつけました。
「ん? な、なんだこのオトは……」
 何やら、いやな音がします。魔物が振り向くと、シャンデリアを支えていた鎖が口を開こうとしていました。
「ゲッ! ゲゲェッ! ハ、ハナすんじゃないぞ!」
 魔物は慌てて、鎖のそばに近づきました。
「ぜったいハナすな! がんばれ、ワンワン! おマエには、ワガハイのミライがかかっているぞ! たのむ、ハナさないでくれ~~!」
 必死になって応援するあまり、魔物はシャンデリアの上でドシドシとジャンプしました。あぁ、そんなことをしたら……
「あ~れぇ~~~~~!」
 案の定。衝撃に鎖は耐え切れず、シャンデリアを落としてしまいました。
「きさまもみちづれだぁ!」
 ヒーローの乗っていたシャンデリアの鎖に、魔物はハンマーを投げつけ、シャンデリアを落下させました。
「ガハハハ……そうカンタンに彼女はわたさん! キサマはいつもワガハイのジャマをしよっテ! もう勘弁ならん! 覚悟しろ!」
 飛び掛かってきた魔物の背中を踏み、ヒーローはお姫様のもとへジャンプしました。
「フンギャ!」
 魔物は、シャンデリアとともに落ちていきました。
「あぁ、よかった……無事だったのね。とぉ~っても心配したのよ」
 一件落着かに思われた、そのとき……
「キャ~~~! し、城がぁ~~~ゆ、ゆ、ゆれているわぁ~~~!」
 衝撃で、お姫様とおヒゲのヒーローは城から吹き飛ばされてしまいました。


 剣は降り、星は散る――


 スターロードは、剣に砕かれ、バラバラになりました。
 そして剣は、大きな音を立て、魔物のお城に突き刺さったのです。
 そのとどろきは、新たな冒険のはじまりを告げる音だったことを、彼らはのちに知ることとなりました。



 半壊した部屋の中で、カジオーは目覚めました。その眼には、憎しみの炎が宿っています。 
「おのれ……ねがいぼしどもめ。星の力に頼ったことで、わが身を滅ぼしかけるとは……ヒトの願いとは、かくも恐ろしいものだったとは。ますます許せない。この世界が! この世界のやつらが!」
 カジオーは部下たちを呼びつけ、命令しました。
「ケンゾール! ユミンパ! ヤリドヴィッヒ! オノフォース! この世界に散らばったスターロードのかけら……スターピースを集めよ! 二度と願い事がかなわない世界にするために!」
 部下たちは街に、森に、海に、山に別れ、世界に散らばったスターピースを探しに行きました。そして、あちこちで悪さをしはじめたのです。
「ぴょーんぴょーん! とにかく夜通し、跳ねろ!」
「ニャニャニャ! 困った顔を見るのは最高だニャ」
「1個でも多く見つけて、出世の糸口にするぞ! キキキキキ……」
「この世の悪を守るために! いくぞ! オノフォース!」
 その日から、星に願った願いは叶わなくなりました。世界に再び、武器たちの脅威が襲い掛かろうとしています……



 武器たちの暴走による世界の破滅は、ジーノが犠牲となって、なんとか防がれました。しかし、弱っていたジーノの力では、カリバーを完全に止めることはできず、スターロードは破壊され、武器たちの訪れを阻止することは叶いませんでした。
 ロゼッタたちは、変わり果てたスターロードの残骸をみて、言葉を失いました。
「ジー……ノ………」
「ねがいぼしくん……」「スターロードが……」「ジーノ殿……」
 ロゼッタは耳につけていたイヤリングを外し、天にかざしました。
「ジーノの場所を、教えて……」
 一筋の光が、目の前の残骸に向かって伸びていきました。光を頼りに、みんなはジーノを探しました。そして……
「ロゼッタ様、これが、落ちていました……」
 ルーバは、ロゼッタにマントの切れ端と、その切れ端に付いていたイヤリングを手渡しました。ロゼッタは震える手で受け取ると、その場で泣き崩れました。
「っ……ジーノ……ごめんなさい。私はあなたに、生きていてほしかった……だから、あなたの願いを、願うことはできなかった。それが、こんなことになるなんて……ごめんなさい……ごめんなさい……」
 傷つき、消えゆくジーノを前にして、ロゼッタは彼が助かることを何よりも願っていました。 

 ――世界を守るために。けれど、あなたが消えたら、あなたの世界は? ……あなたがいるから、世界はあるのに。

 倒れこみ、悲しみに沈むロゼッタ。すると、頭上から、小さな『星』が近寄ってきました。ロゼッタは顔を上げ、その『星』を見つめました。今にも消えてしまいそうな、儚げな光……
「……ジーノ? あなたなのですか?」
 漂う『星』は、よろよろとロゼッタのもとへと近づくと、ゆっくりと彼女の胸の中に入っていきました。
「あ……」
 トクン……トクン……ロゼッタの脈打つ心の音が大きくなり、彼女の身体は温まりました。
「温かい……これが、あなたなの? …………ジーノ……」
 ロゼッタは、自分の胸に手を当てました。懐かしいこの温もり。心が安らぎ、ロゼッタは落ち着きを取り戻しました。
「ここに、あなたがいる……不思議です。なんだか、自分の身体ではないみたい……え、ジーノ? なに……?」
 心の中で、声が聞こえます。ロゼッタは目を閉じ、その声に耳を傾けました。
「ええ、そうね……ええ………」
 ロゼッタは立ち上がり、バトラーに言いました。
「バトラー。しばらく天文台を頼みます。私は、彼を探しに行きます」
「ロゼッタ様……わかりました。お任せください」
「ママ、ボクも行くよ。止めても、無駄だからね?」
 近くにいたベビィが、ルーバの真似をして、ポンッと自分の胸をたたきました。帽子をかぶり直し、準備は万端のようです。
「ベビィ……わかったわ、いっしょに行きましょう」
 身分を悟られないよう、ロゼッタは王冠を置き、ローブを羽織りました。旅の準備を済ませ、キノコ型の星船に足を運びます。みんなに見送られながら、ロゼッタとベビィは足元に広がる世界へと降りてゆきました。



「あら、このお人形は……ずいぶん傷ついているわね。誰かが捨てたのかしら?」
 買い物から帰る途中、ママは草陰に落ちていた人形を見つけ、拾い上げました。足の裏を見ると、名前が書いてあります。
「『トイドー』? こんなお人形、買ってあげた覚えはないのに……持って帰って、誰にもらったのか聞かなくっちゃ」
 ママは人形をバッグにしまいました。ふと、もう片方の足にも文字が書かれていることに気が付きました。
「こっちにも……『ロ』……?」
 文字はキズと汚れで、よく読めませんでした。


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