第12章 -ねがいぼし-


 ジーノの前に、新たな敵が立ちはだかります。
「何者なんだ……!」
 同じ姿に、同じ顔……彼の質問に、目の前のもうひとりの彼は答えました。
「ボクはジェノ。我が王によって作られた武器のひとり。兄さんをもとにボクは作られた」
「ボクをもとに……? どういう事なんだ?」
 ジェノ……と名乗るその者は、ジーノの反応に首をかしげました。
「覚えてないのかい? ボクたちと戦った日の事を……? まぁ、いいさ。星の子らはボクたちの力となる。王の望みをかなえるため、兄さんには消えてもらう」
 ジェノは腰に携えた剣を抜き、ジーノに飛びかかりました。
「!」
 ふたりの戦いが、始まりました。互いの技が激しくぶつかり、周囲の岩がこなごなに砕けます。勝負は五分五分。どちらもゆずらず、戦いは熾烈を極めました。
 一方、チコたちは作戦通り、こっそりオリに近づき、みんなを助け出そうとしていました。戦いの観戦に夢中になっている魔物たちから鍵を拝借し、錠の鍵穴に入れます。
「静かに。今、開けるからね」
 しかし、鍵がたくさんあって、どれを使えばいいのかわかりません。
「…………ダメだ。これじゃない。ええと、こっちかな?」
 もたついていると、鍵がないことに気づいた魔物がベビィたちを見つけました。
「まだチコが残っていたぞ!」
「しまった!」「急いで!」
 あわてて鍵を合わせていきますが、うまくいきません。魔物たちが近づいてきます。
「あんたたち! アタシの縄を解いとくれ! アタシなら、鍵を開けられる!」
 紫色のチコが、足をじたばたさせて、ベビィたちに言いました。
「親分!」
 チコが気づき、急いで縄をほどきます。
「捕まえた!」
 とうとうベビィが捕まってしまいました。
「うわ! こ、この!」
 抵抗しますが、短い手足を振り回しても、魔物には届きません。
「大人しくし……がっ!?」
 背後から……ドッスン!!
 紫色のチコが魔物を踏みつけました。これにはたまりません。魔物はそのまま倒れました。
「大丈夫ですか?」
「ありがとう、ルーバ!」
「さぁて、みんなを助けましょう!」
 そういうと、親分はオリに向かって、スピンアタック!! オリはあっという間に壊れました。中からたくさんのチコが出てきます。
「親分!」「ありがとう、親分!!」
 次々とオリを破壊し、チコたちを全員無事に取り戻すことができました。
 魔物たちは再び捕らえようとしますが、チコ達の圧倒的な数におされ、退却を余儀なくされました。
「隊長殿! チコが! うわぁ!」
「何?」
「そこだ……!」
 一瞬の隙をつき、ジーノは一撃を加えます。
「ジーノカッター!」
「おっと!」
 しかし、かろうじてかわされてしまいました。ジェノは、切り裂かれたマントを見つめます。へぇ、と感心したジェノは、剣をしまいました。
「今日のところは、引き下がろう。また会える日を楽しみにしているよ」
 そう言うと、ジェノの背後に斧の形をした星船があらわれました。ピョンッ、とジャンプして飛び乗ります。星船は、宇宙のかなたへと消えていきました。
「『兄さん』……奴は一体?」
 ジーノは、ジェノの言った言葉を思い出していました。

 さきほど捕まっていた大きなチコが、彼のもとにやってきました。
「助かったよ。ありがとう。アタシはルーバ。チコたちといっしょに旅をしている者だ」
「間に合ってよかった。ボクはジーノ。ヒト探しをしているんだ」
 ルーバは、ジーノの変わった出で立ちをしげしげと見たあと、言いました。
「おや、あんたもしかして……『ねがいぼしのせいれい』だね?」
「『ねがいぼしのせいれい』?」
 初めて聞いた言葉に、ジーノは思わず聞き返しました。
「ああ。ヒトが住む星には、ねがいぼしと呼ばれる、みんなのねがいをかなえる手伝いをする星が生まれるんだ。願いを星に変えて、みんなを明るく照らしてね。でも、ひときわ強い願いが星になると、まれにその願いは意思を持ち、世界に降りてくることがあるんだ。それが、ねがいぼしのせいれいと呼ばれる存在。せいれいがやってくるとき、世界に覆われた闇は晴れるという……そんな伝説も残っている。ずっと旅をしてきたが、初めて見たよ。アンタを願ったヒトは、きっと強い思いをアンタに託したんだろうね。しっかり叶えてあげなよ」
「もちろんだとも!」
 話していると、ほうき星の天文台が到着しました。そして、なかからチコが飛び出してきました。
「親分~~!」
「おお、チコや! 無事でよかった!」
 ルーバはチコを強く抱きしました。
「お前ひとりを逃がしたのはよかったけど、ずっと心配で心配で。助けを呼んできてくれるとはね。ありがとうよ」
 ルーバは、泣きじゃくるチコの頭をヨシヨシ、と撫でました。
「お久しぶりです。ルーバ」
 ロゼッタは、ルーバに会釈をしました。
「またお会いできましたね。我々を助けてくださって、ありがとうございました」
「無事でよかった。彼らは、いったい、何者なのでしょうか」
「わかりません。ここ最近、我々チコたちを狙って、『星狩り』をする者たちが現れ始めています。先ほどの連中も、きっとそうではないかと。用心してください」
「わかりました。気をつけます」
「親分! 星船の航行準備ができました!」
「いつでも行けます!」
 チコたちが、大きな声でルーバに知らせます。
「わかった。今行くよ」
 ルーバは、ジーノに言いました。
「それじゃあ、また会おう。あんたの大切なヒトに、会えるといいね」
「ありがとう、ルーバ。キミたちの旅路に、星くずの恵みがあらんことを」
 ルーバは笑うと、星船の舵を握り、大きく回しました。そして星船は、次の星を目指してまっすぐに進み、やがて見えなくなりました。
「ねがいぼしのせいれい……か」
「ジーノがまさかそんなすごいお星さまだったなんて! びっくりしちゃった」
 ジーノは振り向いて、ベビィに言いました。
「ボクは、ボクさ。サァ、帰ろう。ボクたちの家へ」
「うん!」
 ジーノたちは、今日起きたことをロゼッタに話しながら、天文台に帰りました。
「そう。ベビィが。よくがんばったわね。えらいわ」
 ベビィはエヘヘ、と照れています。
「ジーノ、これからも彼を頼みます」
「うん、ベビィくんがいてくれれば心強いよ」
「ボク、もっと、もっとたくさんの世界を見てみたいんだ」
「あぁ、いっしょに行こう!」
 それからというもの、ベビィはジーノといっしょに冒険の旅に出かけるようになりました。


「王に連絡を。『彼を見つけた』と」
「了解であります」
「それから、奴らの中に白いチコがいたというのは、本当か?」
「ハッ。確かな情報です」
「そうか……じゃあ兄さんはほうき星の魔女とともにいるはず。『彼女』に、そのことを伝えておかないとね。フッフッフ…………ボクたちは何度でもよみがえる。ボクたち、『武器』は!」
 船の暗いブリッジの中で、ジェノは高笑いをしました。


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