第13章 -ゆめ-


 ――これは、夢。そう、何度も、何度も見てきた、夢のひとつ。
 きれいな丘の上に、一本の木。木の下に、たくさんのヒトが集まっている。その中心には、おひげのたくましい男性と、ふたりの子供たち。そして、ひとつの…………ひつぎ。
「パパ、ママを埋めないで。ママを埋めちゃったら、もうみんなでピクニックに行けなくなっちゃうよ。いっしょに星を観ることも、絵本を読むこともできなくなっちゃうよ。ねぇパパ、やめさせてよ。いやだよ……ママ…………」
 あの小さな男の子は、誰? そして、その隣にいる女の子は?
「…………ママ……」
 みんなの目から、星くずが流れている。キレイで、でもとても……悲しい。
「もう、ママはいないんだ………」
 いえ、ここにいるわ。私が、ママよ。いつも見ているわ。雨の日も、風の日も、星が見えない、曇りの日も。あなたたちが旅立つその日まで、見守ってあげたい。それが、私のしあわせ。ママのしあわせなの。
「それは、ほんとうにあなたのしあわせ?」
 ええ。いつか訪れるその日まで、笑顔であなたたちのそばにいたいの。
「あなたのママも、そうだったの?」
 私の、ママ? 私のママは……………………



 ――お星さまになって、雲のうえで あなたが、泣き止むのを待っているわ――


「…………マ……マ…………ママ……」
「ん…………」
 目を開けると、そこにはチコがいました。
「どうしたの、こんな時間に。早く寝ないと、立派な星になれないわよ?」
「うん、でも……ジーノとチコ様のことが心配で眠れなくて」
「そうね。今回はいつもより帰りが遅いものね。でも大丈夫。遠くにいても、この星空のもとで、私たちはつながっている。それに、彼らはひとりじゃないわ。ふたりでいれば、困難もきっと乗り越えられる。だから安心して。ね?」
「うん、わかった」
「今日はいっしょに寝ましょう。こちらにいらっしゃい」
「わーい! ママのベッドだ」
 チコはロゼッタの隣に寄り添い、毛布にくるまりました。
「あったかくて、それに、いい匂い……ママ、おやすみ…………」
「おやすみなさい」
 ロゼッタは、チコの寝顔をしばらく見つめました。
「(ママは、ここにいるわ。いつも、あなたたちのそばにいるわ)」
 やがて再びまぶたが重くなると、ロゼッタは静かに目を閉じました。また同じ夢を見たのか、それとも違う夢を見たのか。それは彼女だけの秘密。


[次へ]
[前へ]
[目次へ]