『彼』……ジーノとロゼッタ、そしてチコたちの旅が始まりました。ロゼッタとチコたちは、星となって生まれ変わる場所を探すために。ジーノは、旅立った少女に再び会うために。そして、いっしょに故郷の星に帰るために。
旅の途中、彼らはたくさんの星を通り、見て、ときには立ち寄りました。あるときはハチの王国が築かれた星に……あるときは辺り一面が水で覆われた星に……あるときはあらゆるものが大きくなった星に……そしてあるときはお菓子とおもちゃでできた星に……訪れた星は、どこもかしこも不思議に満ち溢れている場所ばかり。ジーノは宇宙の広さに驚き、また魅せられていました。
「これが、宇宙……ボクがずっと眺めていた、星の海なのか」
ジーノの瞳には無数の星が映り、輝いていました。
「これくらいで驚いてちゃダメだよ。ボクたちはもっとすごいところに行ったことがあるんだから。ね、ママ?」
そう言うと、チコはエッヘン、と胸を張りました。
「ふふ、そうね」
「キミたちが見てきた星にも、いつか行ってみたいな」
ずっと見てきた星の光。けれどロゼッタたちといっしょに見る星は、いつもとちがって温かく見えました。
ほうき星の尾が消え、天文台が足を止めると、目の前に真っ白な世界が広がりました。
「さぁ、着きました。ここはクラウドガーデンギャラクシー。雲に覆われたギャラクシーです。ここ以外にも、この近くにはいくつかギャラクシーがあります。しばらくはこのあたりを探してみましょう。あなたの大切なヒトがいるかもしれません」
「じゃあ、行ってくるよ」
「お気をつけて」
マントをなびかせ、ジーノは未知の地へ足を踏み入れていきました。
「……ここには、いないみたいだな……」
風に舞う雲を乗り継いで、あちこちを探しましたが、少女の姿はどこにも見当たりませんでした。フッ、と軽くため息をつくと、幾度となく経験してきた感情が胸を覆います。しかし、心にふと少女の笑顔が浮かび、彼を勇気づけてくれました。
「まだあきらめないさ」
風が吹き、雲をどこまでも、どこまでも高く押し上げていきます。ジーノは帽子のずれを整え、天文台へ帰りました。
「おかえり、ジーノ!」「おかえり!」
「ただいま、みんな。……あれ?」
天文台を見渡すと、なんだかチコが少ないようです。ロゼッタもいません。
「みんなはどこに?」
「書斎に行ったよ。ママもね」
「ねぇジーノ、いっしょに書斎に行こうよ。ママが絵本を読むんだ」
「絵本を?」
「うん。きっと楽しいよ!」
書斎は玄関から見て、すぐ右にありました。たくさんの本が部屋の外にも置かれているので一目瞭然です。けれどジーノは、その部屋に入ったことがありませんでした。
「それじゃ、行こう!」
「やった!」
書斎に入ると、すでにたくさんのチコがロゼッタの周りに集まっていました。
「ちょうど始まるところのようだね」
ジーノたちが座るのを確認すると、ロゼッタは絵本を開きました。
「では、はじめるわね」
――それは、気の遠くなるほど、昔の話。
ある小さな星で、女の子がさびた星船を見つけました。そこには、小さな星の子【チコ】が住んでいました。
女の子は、チコに聞きました。
「あなたは、だあれ?ここで何をしているの?」
チコは、言いました。
「ママがくるのを 待っているの。ほうき星に乗って迎えにくるの」
チコは、昼も夜も、長い間まち続けていると言うのです。
「わかったわ、一緒にママをさがしてあげる」
女の子は、チコと指切りをしました―――
「これは……」
ジーノは思わず口を開きました。
――「このまま待っていたら、わたしは、おばあさんになってしまうわ」
ため息まじりに、そう言うと ある提案をしました。
「こちらから ママに会いに行きましょう!」
女の子は、チコと一緒に星船をピカピカにみがくと、船に乗り込んで、星の世界へ出発しました。ママをさがす旅のはじまりです――
「……今日は、ここまで」
本を閉じると、ロゼッタは天井を少し仰ぎ、目を閉じました。
「もっと聞かせて!」
「今日はもう遅いわ。続きはまた今度ね」
「そんなぁ~!」
「いい子にしてたら、またすぐに読んであげるわ」
「う~……じゃあ、また明日ね!」
「約束よ。さぁ、みんな。ベッドに行きましょう」
ごねるチコたちをなだめ、ロゼッタは寝室へ向かいました。ロゼッタは書斎を出る前に、ジーノに声をかけました。
「今日は我が子といっしょに来てくださって、ありがとうございます。みんな、喜んでいました。……どうしました?」
いつもとは違う顔のジーノに、ロゼッタは尋ねます。ジーノは、少し俯いて、彼女に言いました。
「……ロゼッタ、聞きたいことがあるんだ。実は…………いや、なんでもない。楽しかったよ」
「またいらしてくださいね」
「もちろん。おやすみロゼッタ」
「おやすみなさい、ジーノ」
ロゼッタたちが部屋を出ると、ジーノは本棚にもたれ、腕を組みました。そして、ひとり考えました。
「……似ていた。あの子に。これは、偶然なのか……?」
静寂の世界となった書斎で、暖炉の薪がパチリ、パチリと音を立て、燃えていました。
それから、彼はたびたび書斎に顔を出し、ロゼッタのおはなしを聞くようになりました。
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