第3章 -にんぎょう-


 赤ちゃんは元気な少女に成長しました。
 今では弟を連れ、星見の丘で鬼ごっこやかくれんぼをしたり、お城で色んな遊びをしていました。
「きゃー! だれかたすけてー!」
「ぐふふ……姫よ、オヌシはワガハイの城へくるのだ……」
 今日は人形遊びをしているようです。
「ぴょーんぴょーん!まて、そうはさせないぞ!!」
 お姫様のピンチに、ヒーローが駆けつけました。
「なに!? お前はいつもワガハイの邪魔をしおって!!」
「スーパァー、ジャンプ!!」
 ヒュ~~~~~~~~~~~……ドッカン!!
 お姫様を助けにきたヒーローは、瞬く間に部屋の隅っこまで吹っ飛ばされました。
「ガハハハ! これで姫はワガハイのものだ!!」
「ちょっと待ちな!」
 青い帽子とマントをなびかせ、颯爽登場! ジーノが助けにきました。
「とおっ!」
 大魔王に果敢に立ち向かっていきます。
「おのれ、なかなかやるではないか……しかしワガハイをやっつけることはできんぞ!! ヌオオオ!!」
 ドカンッ!!
 渾身の一撃に、ジーノもまた吹っ飛ばされてしまいました。
「くそぅ……このままではやられてしまう……こうなったら……」
 ジーノは腕を構え、狙いをつけます。
「いくぞ! シュ~ティングスタァ~~~~~~ショット!!」
 シュゴオオオオオオオオオオ! ボッ!!
 右腕から発射されたロケットパンチが、目にもとまらぬ速さで飛んでいきます。
「!?」
 見事命中! 大魔王はバルコニーまで吹っ飛ばされました。……パパもいっしょに……
「あ……外れちゃった……」
「きゃー! パパーーー!!」
 持っていたお姫様の人形を投げだし、少女はパパのもとへ駆け寄ります。大きな声を聞き、ママが部屋にやってきました。
「あらあら、どうしたの? ……アナタ! しっかりして!」
「……頭を強く打ったみたいね。人を呼んできて」
「私、行ってくる!」
 少女は部屋を出る前、弟に言いました。
「アレは使っちゃダメってパパに言われてたでしょ!」
「ごめん……でもパパがいつもより張り切ってたからつい……」
「しばらくジーノは私が預かるから! いいわね!」
「あっ! かえしてよ!!」
「だめ! しばらく反省しなさい!」
 弟からジーノを取り上げると、少女は部屋を出ていきました。



「もう……すぐ調子に乗るんだから」
 長い廊下を走り、大臣のもとへ向かいます。
 廊下の窓から、明るい光が差し込んできました。それはお月様の光でした。少女は、そのうつくしさについ立ち止まってしまいました。
「キレイ……今夜は満月ね……え!?」
 ガシャン!
 突然、何者かが窓を突き破って、お城の中に入ってきました!
「お前をさらいに来たゾォ! 一人前になったってことをパパに認めてもらうんだ!」
 空飛ぶ乗り物に乗っている小さな魔物には、大魔王人形の面影がありました。
「誰か! たすけて!」
 しかし、そこには誰もいません。
「お前が1人になるのを待ってたんだ! 誰も来ちゃくれないゾ!!」
「(パパがいてくれたら……!)」
 しかし、そのパパは今、ぐったり横になっています。ジーノのせいで……
「ジーノ!?」
 そうだ……! 少女は手に持っていたジーノの腕を魔物に向けます。
「ふん、そんなお人形で何ができるっていうんだ! さぁ、くるんだ!!」
「ジーノ、お願い!」
 キュイイイインン……ズドン!!
 背中のボタンを押すと突然、両腕から強い光線が発せられました。
「ジーノビーム!」
「えっ!? う、うわあああああああああああああ!!」
 魔物はお城の外、はるかかなたへと飛んでいきました。
「すごい……こんな力があったなんて……」
 少女は、ジーノをまじまじと見つめました。
「ありがとう、ジーノ。あなたは私のヒーローね。また困ったことがあったら、よろしくね」
 返事はありません。でも少女は、人形がかすかに笑っているような気がしました。


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