第2章 -たんじょう-


 月日は流れ、おとこのこはおおきくなりました。 今ではママの仕事のお手伝いで毎日大忙し。人形たちは、今では暗くてほこりっぽい、屋根裏部屋にしまってあります。冒険から帰ってきたジーノも、他の人形たちと同じおもちゃ箱の中に入っていました。大好きだったジーノごっこは、子供のころの思い出として、心に残るのみとなっていました。

 そんなある日のこと、おとこのこが暮らしているこの王国のお姫様に、赤ちゃんが生まれたというニュースが町中で話題となりました。それを聞いたおとこのこは、その子に何かをプレゼントしてあげたい、と思うのでした。
「なにがいいかな」
 あーでもない、こーでもない。なかなか考えがまとまりません。家の中をぐるぐる歩き回りながら考えていると、ふと、屋根裏部屋に閉まった人形たちのことを思い出しました。
 階段を下ろし、部屋へと向かいます。きしむ床の上に、たくさんの箱やものが乗せられています。舞い上がるホコリにせき込みながら、おとこのこは人形を探しました。
「あった……!」
 子供のころ、毎日のように触れたおもちゃ箱。ふたを開けると、そこにはおとこのこの『ヒーロー』がいました。
「ジーノ、いこう。キミを必要とする子のもとへ……」
 旅の支度もそこそこに、おとこのこはジーノを手に取り、お城へと急ぎます。旅立つ前、おとこのこはお姫様に手紙を送りました。



 数日後、おとこのこは城下町に着きました。町では生まれた赤ちゃんの誕生を祝って、連日盛大なパーティが開かれていました。たくさんのヒトの海にもまれながら、おとこのこは赤ちゃんのいるお城のもとへ少しずつ、少しずつ近づいていきます。
 お城はいつも以上に警備が厳重になっていました。赤ちゃんを一目見ようと、忍び込もうとするヒトが後を絶たなかったからです。おとこのこは門番に要件を伝えました。
「話は姫様からお聞きしております。どうぞお入りください」
 おとこのこは特別に入れてもらうことができました。

 お城に入ると、中にはとても食べきれないほどのごちそうと、婚礼の町からやって来たケーキ職人が作った、大きな大きなケーキが並べられていました。おとこのこは広間の奥に、懐かしい顔をとらえました。そこには、このお城よりもっともっと高いところにある、雲の王国からやって来た王子さまの姿もありました。やっとのことで、おとこのこは彼らと会うことができました。お姫様の腕に抱かれて、ふわふわの肌をした赤ちゃんがスゥ……スゥ……と静かに寝息を立てています。
 おとこのこはおじぎをしました。そして、カバンからジーノを取り出しました。
 彼らはとても驚きました。そして、とても喜びました。
 ジーノを手渡すと、ふたりに言いました。
「いつかこの子が大きくなったら、渡してあげてください」
 ジーノを受け取ると、ふたりは微笑み、小さくうなづくのでした。お姫様が、おとこのこに尋ねました。
「トイドー。あなたの生まれた町の名前は、ローズタウンと言いましたね」
「はい。そうです」
「"ローズ(バラ)"……この子にも、バラのように美しく、たくましく生きてほしいわ。……決めたわ。この子の名前は……」
 その場に居たみんなは、お姫様から赤ちゃんの名前を聞きました。
「いい名前ですね!」
 雲の国の王子様は、上半身をプカリと浮かばせました。
「きっと、元気な子になるわ。ありがとう」
 おとこのこは、光栄に思いました。一礼し、お城をあとにしました。帰り道で、おとこのこはジーノと過ごした日々のことを思い出していました。
 丘に登り、魔物のお城に突き刺さった剣をいっしょに見に行ったこと……帽子とマントを作って、自分もジーノになりきって遊んだこと……ママのお皿を割って、ジーノのせいにしてしまったこと……そして、運命の日……世界を救いに、ジーノが旅立っていった日のことを。
 少年の時代に戻った彼の瞳には、夜空の星が映って、より一層の輝きを放ちました。
「さよならジーノ……ありがとう」
 その夜はたくさんの流れ星が国中に降り注ぎ、見渡す限りの夜空をどこまでも、どこまでも照らしつづけました。


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