――それは遠い昔のような、これから起こる未来のような、不思議なお話。
ある小さな町の宿屋に、一人のおとこのこがいました。おとこのこはママとふたりっきりで生活していました。ママはお客さんの相手で毎日大忙し。おとこのこが遊びをせがんでも、
「また後でね」
と相手をしてくれません。近所の子供たちは、おとこのこよりも一回りも二回りも大きく、一緒にボール遊びをしようものなら、いつもケガをして帰ってくるのでした。
仕方がないので、おとこのこはひとりで人形遊びをすることにしました。家にはヒーローの人形、お姫様の人形、悪者の人形がありました。ヒーローとは言っても、私たちが思い描くような姿ではありません。赤い帽子に大きなおヒゲ、そして青いオーバーオールをまとった、ちょっと変わったヒーローなのです。
おとこのこは、ママからこの人形の元になった人のお話をたくさん聞いていました。谷を越え、海を渡り、炎をかいくぐってお姫様を助けに行くお話。そのお話はおとこのこの大のお気に入り。けれど、この人形の姿を見るたびに、
「本当にこんなおじさんが、お姫様を助けられるのかな?」
と、どうにも納得がいきませんでした。
誕生日を迎えたおとこのこに、ママがプレゼントをくれました。
「お誕生日おめでとう。いつもごめんなさいね。はい、プレゼントよ」
箱を開けると、そこには新しい人形が入っていました。青いマントと帽子に、キリリとした赤い眼。帽子の隙間からは、オレンジ色のカールした髪飾りが伸びていて、腕や足には、押すと何かが起きそうなワクワクするボタンがついています。新しいヒーローの登場に、おとこのこはとても興奮しました。それから、おとこのこはその人形で遊ぶようになりました。そして、人形に名前をつけました。
「ねえねえ、『ジーノ』ごっこしようよ!」
このあと、ジーノにはとても愉快な大冒険が待っているのですが、それはまた別のお話。
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