その夜、ジーノは天文台のてっぺんに登り、星を眺めていました。そして、今までの冒険のことを思い出していました。
「長い、旅だったな……」
「まだ終わってないわよ」
「!」
突然の声に、ジーノは驚いてバランスを崩してしまいました。
ヒュ~~~~……スタッ!
なんとか無事に着陸できたようです。
「ロ、ロザリィ……びっくりしたじゃないか」
「アハハ。じゃあ、大成功ね」
女の子は無邪気に笑います。
「ついでにもうひとつ、びっくりがあるの。ジーノ、右腕を見せて」
「?」
「はい、プレゼント!」
すると女の子は、ジーノの新しい右腕を渡しました。
「これは! いったいどうしたんだい?」
「ロゼッタさんといっしょに、予備の部品を使って直したのよ。私の魔法もかけてあるわ」
「キミの魔法が?」
「ええ。だって私も、魔法使いなんだから。……なんてね」
そういうと、女の子は舌をペロリと出しました。
「ありがとう。大切に使わせてもらうよ」
ジーノは早速、装着しました。手を何度か握り、感触を確認します。
「うん、いい感じだ」
「いつか、役に立つときがくるわ。きっとね。じゃあ、おやすみジーノ」
「おやすみ、ロザリィ」
女の子は、下の階に降りていきました。
ロゼッタは、ベッドルームで髪をとかしていました。ふと入口を見ると、女の子がいることに気が付きました。
「あら、ロザリィさん。何かご用ですか?」
女の子は、ロゼッタをまじまじと見つめていました。
「ステキ……」
「?」
「いえ、ごめんなさい。あなたがとてもキレイだったからつい」
「彼と再び会うことができて、よかったですね」
「ええ、ありがとうございます」
こちらへ、とロゼッタが招くと、彼女は女の子の髪をとかしてあげます。
「ロゼッタさん、聞きたいことがあるのだけれど……」
「何ですか?」
「ジーノのことを、どう思ってるの?」
突然の質問に、ロゼッタは少し考えました。
「そうですね……彼は、とても勇敢なヒト。そして、強い心を持っています。ジーノは、あなたを探すために、この広大な星の海を旅してきました。その道中、困っているヒトを助けたり、幾度となく我が子を守ってくれたのです。私たちにとって、彼は大切な家族です」
「私『たち』? ……ふ~ん…………本当のところは、どうなの?」
「本当の?」
ロゼッタは聞き返します。よく意味がわかりません。
「ロゼッタさんは、ジーノのことが好きなんでしょ?」
女の子は、率直に聞きました。
ロゼッタは、手を止め、言いました。
「……わかりません。でも、彼のことを考えると、とてもなつかしくて……心が温まります。なぜこんな気持ちになるのか……私には、昔の思い出がないはずなのに。……ごめんなさいね。うまく答えられなくて」
「……思い出は、あるわ。あなたの中に」
「え……?」
さっきまで聞こえていた声とは別の声が答え、ロゼッタが驚いたそのとき、外からとても大きな音が聞こえました。敵襲です!
「ロザリィさんはここに。私はこどもたちを見てきます」
杖を持って、ロゼッタは外に出ました。
「……そろそろね」
女の子は、立ち上がります。ベビィが、ベッドルームに入ってきました。
「ママ! たいへんだ! この前ボクたちの仲間を襲った奴らが……! あれ……? キミ……いや、あなたは? えっ……マ、ママ!?」
「ハズレよ」
「!? うわあああ!!」
斧の星船から、たくさんの砲弾が飛んできます。外では、燃え盛る炎を背景に、以前出会ったジェノという武器が部下を引き連れ、ジーノと激しく衝突していました。
「星船を守っていたバリアが解除されるなんて……それにこのタイミング……! なぜボクたちの場所がわかったんだ!?」
「協力者のおかげさ。今日こそ星の子をいただく! そしてこの天文台に宿るパワースターもね!」
「そうもいかないんだな!」
ジーノは、肘を曲げ、銃口をあらわにしました。
「ハンドキャノン!」
ドカンッ!
発射された大きな弾は、ジェノの姿勢を崩し、斧の星船に穴を空けました。
「エンジン部に被弾! 航行機能に支障発生!」
「ちっ!」
ジェノは、持っていた剣をジーノに投げつけました。
「危ない!」
ロゼッタが杖を掲げると、ジーノのまわりに光の幕がかかり、剣を弾き返しました。
「こどもたちは避難用の星船に乗せました」
ジェノは剣を拾い、こぼれた刃を見ました。
「やるじゃないか。でも、キミたちの負けだ! アレを見ろ!!」
ジェノが指をさす方向を見ると、女の子が、ぐったりしたベビィを抱えていました。となりには、黒いチコもいます。
「ロザリィ……?」
「マスター。船のバリアを解除しました」
マスター、と黒いチコは女の子のことを呼びました。
「ご苦労様。うまくいったわ」
ジーノは、とても信じられませんでした。
「そんな……なぜ? …………なっ!?」
突然、女の子の周りが、赤黒いオーラに包まれていきました。そして、ピカッ、と光ったかと思うと、ロザリィと呼ばれていた女の子は、大人の女性へと姿を変えました。
「これは……!?」
驚いたのはそれだけではありませんでした。ふたりは、あまりにも『似ていた』のです。
「ママが……ふたり……?」
ぐったりしたベビィが、目をかすかに開け、ふたりのロゼッタを見ました。
「あなたはいったい……」
「私は、もうひとりのあなた。そしてあなたは、もうひとりの私」
あらわれたもうひとりのロゼッタは、黒いドレスを着ていました。
「さぁ、大人しくしてもらおうか。抵抗すれば、あの星の子の命はない! フッフッフ……」
ロゼッタとジーノは、武器を下ろしました。
「くっ……」「ベビィ……」
「さぁて、兄さんはこっちに来てもらおうか」
ジーノは、斧の星船の前に立たされました。すると後ろから、ロゼッタのうめき声が聞こえました。
「うっ…………」
「おやすみなさい」
「ロゼッタ!?」
「み、んな……」
ロゼッタは、もうひとりのロゼッタに、魔法で眠らされてしまいました。そしてチコたちは、避難していた星船ごと網をかけられ、捕まってしまいました。
「ロゼッタ様!」「なにが起こっているんだ!?」
「キャーー!」「ママー!」「うわぁー!」
「チコ!」
なんとかしなければ……しかしジーノは動くことができません。
ジェノは、もうひとりのロゼッタに言いました。
「こんなにうまくいくなんてね。あなたの魔法には敬服するよ」
「約束通り、この子は頂いていくわ。あとは好きにしなさい」
「ああ。ありがとう。ほうき星の……いや、『黒き魔女』よ」
もうひとりのロゼッタは、ベビィを降ろし、ロゼッタを抱き上げました。
「兄さん、チコたちはありがたく頂戴するよ。ハーハッハッハッハッハ!!」
「ロゼッタ! チコ!!」
「じゃあね、兄さん。さようなら……撃て!」
斧の星船のブリッジから大きな顔があらわれ、口を開けました。エネルギーを溜めはじめます。
そのとき、ベビィが一瞬の隙をついて、ジーノの元に戻りました。
「アイツ、まだ力が残っていたのか!」
「ジーノ! みんなを……!!」
ベビィに言われて気づいたジーノは、チコたちの星船にかけられた網に狙いを定めました。
「ジーノカッター!」
ザシュッ!
網は切り裂かれ、星船は魔物たちから脱出しました。
「消しとべ!!」
「ジャスティスブレイカ、発射!」
正義を砕く悪しき閃光が、ジーノたちをまわりの地面ごと吹き飛ばしました。
「ロゼッタ!!」
「ママ!!」
「ベビィ! ……!!」
ふたりは、宇宙の闇へ消えていきました…………
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